第28回-精神専門70-72

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次の事例を読んで, 問題70から問題72までについて答えなさい。
さて事例問題です。3問一気終わらせますよ!

〔事例〕
当時20歳代のAさん (男性) は, 統合失調症の診断で精神科のX病院に市長の同意による入院となった。Aさんが入院する前年, 高度経済成長の最中, 東京オリンピックが開催され, その数か月前には駐日アメリカ大使ライシャワー氏が精神障害のある 少年に刺されるという事件があり, 精神科医療が大きく揺れた年でもあった。 (問題 70)
Aさんは, 身寄りもなく, 生活保護を受けながら入院生活を送ることになった。その後Aさんは院内作業をするなどしていたが, 外出は一度もすることがなかった。Aさんは元々真面目な性格でおとなしく, 病棟スタッフからも信頼を得て, 病棟患者会での役割を受け持つなどして過ごした。そしてAさんは, 閉鎖病棟で地域社会とは関わりのないまま20年余りの歳月が流れた。このような中で宇都宮病院事件が起きた ことを契機に法改正が行われた。そこで40歳代になったAさんは, 新しい入院形態について説明を受けた。Aさんが入院に同意をすると, 入院に関する告知とともに新しい入院形態に変更された。 (問題71)
その後, 退院する気持ちが強くなったAさんは, 他人の手を借りるのは申し訳ないと, 入院形態を変更した1年後には自らアパートを探して退院した。退院後, Aさんは, 生活が次第に乱れ外来通院も滞りがちとなり, 半年後には再入院となった。Aさんはすっかり自信を失っていた。Aさんの担当となったBソーシャルワーカーは, 4年がかりで再びAさんのアパート暮らしに対する希望を引き出した。Bソーシャル ワーカーは, 50歳代になったAさんの状況について一人暮らしは難しいが見守りがあれば地域での生活は可能であると判断した。Bソーシャルワーカーは, 保健所のC 相談員に相談したところ, これまで予算措置として実施されていた制度がこの時点で 法定化したこともあり, それを活用しようという話になった。 (問題72)
現在, Aさんは70歳代になったが, 地域での生活が継続している。

問題70 次のうち, Aさんが入院するに当たり適用された法律として, 正しいものを1つ選びなさい。
1 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
2 精神病者監護法
3 精神保健法
4 精神衛生法
5 精神病院法

なかなか手の込んだ問題ですね。これらの法律の年号はしっかり覚えておきたいです。ライシャワー事件は, 1964年に起こった出来事で, アメリカ大使のライシャワーが米国大使館の前で19歳の統合失調症患者にナイフで刺されたという事件です。この事件は1965年の精神衛生法の改正に大きな影響を及ぼしました。

選択肢1 誤り。精神保健福祉法は, 1995年~現在です。1993年に障害者基本法が成立し, 身体, 知的, 精神の3障害が障害者として定義されました。それまで, 精神障害者は, 精神保健法つまり「医療」の枠組みの中に置かれていましたが, 疾病と障害の併存ということで精神保健福祉法に改正されたという背景があります。

選択肢2 誤り。精神病者監護法は, 相馬事件をきっかけに1900年に成立した法律です。当時は十分な数の医療機関も無く, 精神障害者の多くは自宅で軟禁状態に置かれていました。そこで, その私宅監置にも一定のルールを設けるという意味で作成されたのがこの法律となります。

選択肢3 誤り。精神保健法は1987年です。宇都宮病院事件など, 悪質な病院における人権侵害などに関する国内外の批判から, 精神障害者の人権に配慮した適正な医療及び保護の確保と精神障害者の社会復帰の促進を図るため, 法の目的に初めて「社会復帰の理念」が明記されました。

選択肢4 正答。精神病院法によって, 精神病院を作ろうという流れができた後も, 財政上の問題から私宅監置は継続していました。精神衛生法では, 「精神障害者に適切な医療及び保護」を主な目的とし, 私宅監置を禁止, 精神科病院の設置を都道府県に義務づけなどが規定され, 精神病院法, 精神病者監護法は廃止されました。この精神衛生法は, 精神医学の進歩や, ライシャワー事件などをきっかけに1965年に大改正が行われながら1987に精神保健法が改正されるまで続きます。事例はこの時期の説明ですね。

選択肢5 誤り。精神病院法は, 呉秀三らがその成立に尽力したものです。呉らは, 全国の私宅監置の現状を調査し(呉秀三・樫田五郎『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』), その悲劇的な状況を明るみにすることで, 都道府県に公立精神科病院を設置し地方長官が患者を入院させる制度を構築しました。

 

問題71 次のうち, Aさんの新しい入院形態として, 正しいものを1つ選びなさい。
1 応急入院
2 医療保護入院
3 任意入院
4 措置入院
5 緊急措置入院

入院形態もほぼ毎年出題されますねー。自分コピペで対応します。せっかくなので詳しく説明も追加しておきます。

選択肢1 誤り。応急入院は, 緊急の入院が必要で保護者の同意がすぐに取れない場合に行われるもので1987年の精神保健法で新設されました。厚生労働大臣の定める基準を満たし, 都道府県に指定を受けている病院の管理者の権限で, 精神保健指定医の診察の結果, 72時間に限り認められています。この72時間の間に, 保護者と連絡をとり医療保護入院への切り替えを行うか, 本人の意思での任意入院に切り替えるなどの方法を検討することになります。事例には当てはまりません。

選択肢2 誤り。医療保護入院は, 精神保健指定医 (1名) の診察の結果, 精神障害者であり, かつ医療及び保護のための入院必要があるもので, 任意入院が行われる状態にないものを対象とした強制入院です。入院時には書面告知と家族の同意書が必要であり, 病院管理者は, 10日以内に保健所を通じ都道府県に入院届を提出する必要があります。強制的な入院ですので, 継続している場合には, 1年に1度, 定期病状報告書, 退院した場合には, 退院届が必要となります。事例には当てはまりません。

選択肢3 正答。任意入院は, 1987精神保健法で新設された入院形態です。それまでは精神科病院においては, 自分の意思での入院というものがなく, すべての入院は同意入院という保護者の同意に基づく入院でした。
この任意入院が, 事例にぴったり当てはまります。自分の意志を明らかにするために, 入院時には, 本人の同意書を書面で取ることが必要であり, また権利等に関する書面告知も必要です。ちなみに, 2005精神保健福祉法改正では, この同意書の取り直し (任意入院継続同意書 (1年目と2年毎)) についても明記されましたので, これもついでに覚えておきましょう。

選択肢4 誤り。措置入院は, 医療及び保護のために入院させなければその精神障害者のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある場合に都道府県知事の権限において行われる強制入院です。現在は入院患者全体の数パーセントに留まっています。ちなみに費用は全額公費(国3/4, 県1/4)で保険優先です。2名以上の精神保健指定医の合意が必要であり, 措置入院継続の場合, 初回入院時は3ヶ月, その後は6ヶ月に一度定期病状報告書, 退院時には措置入院症状消退届を提出する必要があります。事例には当てはまりません。

選択肢5 誤り。緊急措置入院は, 2名の精神保健指定が確保できない場合でも, 緊急性が高い時は, 精神保健指定医が1名の診察でも入院が可能な制度です。72時間以内にもう1名の精神保健指定医による診察を行い措置入院に切り替える必要があります。事例には当てはまりません。
問題72 次のうち, C相談員が紹介した制度として, 正しいものを1つ選びなさい。
1 精神障害者生活訓練施設
2 精神障害者地域生活援助事業 (グループホーム)
3 精神障害者通院医療費公費負担制度
4 精神医療審査会
5 精神障害者保健福祉手帳

「一人暮らしは難しいが見守りがあれば地域での生活は可能」という時点でほぼほぼ答えは出そうなサービス問題ですね。ただ, わざわざ古い制度の名前になっているので, ちょっと知らない人も多かったかもしれません。なんのためにしたのかなあ。

選択肢1 誤り。ちょと悩みました。生活訓練施設は, 精神障害のため家庭において日常生活を営むのに支障がある精神障害者が日常生活に適応することができるように, 低額な料金で入所し, 必要な訓練および指導を受けることによって, 社会復帰の促進を図ることを目的として設置されました。援護寮と呼ばれるものです。「予算措置として実施されていた制度がこの時点で 法定化したこともあり」という部分から考えると, 1987年の精神保健法で法定化されているので誤りですね。

選択肢2 正答。精神障害者地域生活援助事業はいわゆるグループホームのことです。これは1993年の精神保健法一部改正によって追加されました。時期的にも社会資源の機能的にもこれが正答だと思います。

選択肢3 誤り。精神障害者通院医療費公費負担制度は通称32条と呼ばれるもので, 1987年精神保健法の際に法定化されました。通院医療費の自己負担を5%まで減免することができます。もちろん利用できる制度ではありますが, 「予算措置として実施されていた制度」ではないので誤りだと思います。

選択肢4 誤り。精神医療審査会は, 精神障害者の人権に配慮し, その適正な医療及び保護を確保する観点から, 精神科病院に入院している者の処遇等について, 専門的かつ独立的な機関として審査を行うことを目的としています。これは事例には当てはまりません。

選択肢5 誤り。手帳は1995年精神保健福祉法成立時に法定化された制度です。まだ事例の時点では法制化されていませんのでもちろん利用できる制度ではありません。

ちょっと事例問題としては全体的に難易度が高かったなあ。さてこの科目も今日でおしまい。あと1科目頑張っていきましょう!

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