第26回-精神専門58ー60

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さて, 理論展開最後の事例問題です。今日も3問一気にいきましょう。

次の事例を読んで, 問題 58から問題 60までについて答えなさい。
〔事 例〕
Cさん (23歳, 女性) は, 高校3年生の春ごろから, 「周りから悪口をいわれる」「死にたい気分になる」と話すようになり, 精神科初診時に統合失調症と診断された。卒業後は予備校へ通学したが, 幻聴が強く, 自殺企図があり, 3か月間入院した。入院を契機に予備校を退学し, 退院後は自宅学習を続けながら, メロン・梨・トマトなどを栽培する実家の農業を手伝っていた。両親, 祖母と同居し, きょうだいはいない。集中力の低下, 幻聴体験が継続し, Cさんは大学進学を断念。20歳の春からは実家の農業でトマト栽培を担当し, 給料をもらうようになった。月2回の外来受診を継続し, ときに幻聴体験, 対人緊張が高まる場面でのめまいや動悸, 自傷行為があるものの, 入院するまでには至らなかった。家事を母親と分担し, 仕事の合間には, 中国語講座に参加したり, 好きなミュージカルの公演やコンサートを楽しんでいた。
21歳のとき, Cさんは「毎年主治医が変わっている。いろいろゆっくり話ができる相手がほしい」と希望し, 主治医からD精神保健福祉士に継続面接の依頼があった。初回面接で, Cさんは「時々, ふっと死にたくなるときがある」「農業には自信ができてきた」「家族に心配かけたくない, 病気のこともいろいろ話せない」「同級生に会うと, やはり進学したかったと思う」「人と一緒の場は緊張して疲れる」「仕事や生活も, このままでいいのかと考えてしまう」と語った。(問題 58)
半年後, Cさんは, 町内会の行事に母親の代理で参加することになり, 幻聴体験,
希死念慮が強まり, 2か月間入院した。自宅への退院に際し, 「人付き合いが心配。
でも, 気楽に話ができる場があるといい」というCさんに, D精神保健福祉士はデイ
ケアでのグループ活動へ参加することを提案した。(問題 59)
その後1年が経過し, Cさんの病状はずっと安定している。面接の中で「トマト栽培は出荷を任されるようになった。育てることが面白くなってきた」「中断していた中国語講座に行き始めた」「また悪くなるかもという不安はあるけど, デイケアの時間を他のことに使って, 自分のできることを広げてみたい」と話した。(問題 60)

問題 58 次の記述のうち, この時点で, D精神保健福祉土が行うCさんへの支援として, 適切なものを1つ遊びなさい。
1 自殺の話には触れないようにする。
2 農業以外の就労可能性を検討する。
3 進学に再チャレンジするよう励ます。
4 家族からの独立を目指し, 単身生活の訓練を始める。
5 安心して思いを語ってもらえる関係をつくる。

事例問題らしい事例問題ですね。あまり解説しようがないですけど, 一応解説しておきます。

選択肢1 誤り。自殺の話については, 本人のペースに合わせて言語化していく機会は必要だと思います。面接中はそういった話が出てくると重い雰囲気になってしまうことはありますが, そういった負の部分も含めて表出する場があることは大事なことではないでしょうか。

選択肢2 誤り。農業以外の就労については, 本人のニーズとして一切表出されていませんね。

選択肢3 誤り。事例を見ると, 進学に対する潜在的ニーズはある様子なので, 将来的にもしかしたらチャレンジする可能性はありますが, 今現在「励ます」のは適切な援助とは言えないと思います。

選択肢4 誤り。「家族からの独立」も本人からのニーズとしては表出されていませんね。

選択肢5 正答。事例問題に特徴的な選択肢ですね。これを誤りとすることはできません。

 

問題 59 次のうち, D精神保健福祉士がこの活動を勧めた目的として, 適切なものを2つ選びなさい。
1 服薬管理
2 仲間づくり
3 就労訓練
4 生活スキルの獲得
5 対人ストレスへの対処方法の習得

選択肢はすべて, 間違いではないとは思いますが, デイケアになにを目標に通うかという問題だと思います。消去法で選べたのではないでしょうか。明らかに間違いのものから順番に解説していきます。

選択肢1 誤り。事例を見る限り, 服薬管理等のコンプライアンスは守られていると思います。

選択肢3 誤り。就労訓練については, 本人のニーズにも表出されていませんし, 実際に農業等の仕事を楽しく感じつつある様子です。また, より積極的な就労訓練をするためには, 就労継続支援の方が適切かもしれません。

選択肢4 誤り。ここの選択肢でいう「生活スキル」が何を示しているのかは微妙ですが, Cさんは衣食住等の基本的なスキルは満たされている様子です。また, 事例の話の中では一度もニーズとしては, 表出されていません。

以上の消去法によって正答は2・5で問題ないと思います。また, 「人付き合いが心配。
でも, 気楽に話ができる場があるといい」という本人のニーズからも選択肢5 の「対人ストレスへの対処方法の獲得」と選択肢2の「仲間づくり」は正答だと思います。

 

問題 60 次の記述のうち, この時点で, D精神保健福祉士が行うCさんへの支援として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 自立支援給付を利用するためのアセスメントをする。
2 病状の変化が心配なので, このまま様子を見る。
3 農業をもっと学ぶことができる場や機会を探す。
4 当事者活動に積極的に参加するよう勧める。
5 両親の意見や意向を優先する。

選択肢1 誤り。本人は, デイケアに使っていた時間を他の事に使いたいというニーズがあるので, その他の障害福祉サービスを利用するというのは本末転倒だと思います。

選択肢2 誤り。もちろん, 環境の変化によって一時的に病状が悪くなることはあり得ない話ではないと思いますが, それによって本人のやりたいことを諦めるという援助は良くないと思います。危機介入の体制を整備した上で本人の自己決定を支える援助が求められますね。

選択肢3 正答。うーん事例を見る限りは本人の「できることを広げたい」というニーズには農業が一番近いような気がします。ただ, 実際のケースではもっともっと情報を収集して, 多角的な視点で支援をするべきだとは思いますが。。

選択肢4 誤り。これは文脈によっては正解になったかもしれません。ただ, 当事者活動への積極的参加はあくまで本人の希望によって行うべきことです。事例の内容からはCさんにはそのニーズはないようの思えます。

選択肢5 誤り。この事例の中では両親は一切登場していないので, 彼らのニーズは良くわかりません。また, 登場していたとしてもあくまで本人中心の援助が原則ですね。

今日はここまでー。よし, あと20問!

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