第26回-精神専門55ー57

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次の事例を読んで, 問題 55から問題 57までについて答えなさい。
〔事 例〕
地域活動支援センターI型のWセンターは, 人口13万人の地方都市の商店街の一角にある。2年前の開設に際しては, 商店街の人たちから施設設立に反対する意見があがり, 市や市議会議員らの尽力で何とか開設にこぎつけたという経緯がある。同じ商店街には, Wセンターが運営しているX喫茶店があるが, 地域住民の利用はほとんどない。WセンターのA精神保健福祉士は, X喫茶店やWセンターの活動をもっと地域に根づいたものにしたいと考え, この地区を担当する民生委員のBさんと話し合い, まずは住民のニーズを把握してみようということになった。そこでA精神保健福祉士は, 様々な立場の地域住民に一堂に集まってもらい意見を聞く機会をもつことにし, 利用者やBさんの協力を得ながら準備を重ねた。当日は, A精神保健福祉士がファシリテーターの役割を担い, 参加者に互いの考えを尊重し合いながら, 自分の暮らす町についての意見を自由に出し合ってもらった。(問題 55)
参加した地域住民からは, 交流の機会となっていた商店街の祭りが数年前から開催されなくなったことや, 住民同士が知り合い, つながる場が少なく残念だという意見が多く出された。そして最後には, 地域の子どもや大人が一緒に楽しめ, 障害者との交流の機会にもなるようなイベントを開催したいという意見でまとまった。そのとき, 参加者の1人から, X喫茶店を会場にした絵画教室の開催と, その作品を商店街に展示するまちかどギャラリーの提案があり, 参加者から賛同の声があがった。そこでA精神保健福祉士は, 参加者を中心に実行委員会を組織化した。数回の話合いと準備を重ね, 約3か月後に絵画教室と商店街でのギャラリーが開催されたが, 多くの人が商店街に足を運び盛況だった。このイベントは, その後も継続し定期的に開催され, 地域住民同士や, 住民と障害者との自然な交流が生まれる場となった。(問題 56)
この地域では, 絵画教室とまちかどギャラリーが継続的に開催されるにしたがって, 住民同士の付き合いや交流の機会が増えていった。そして, 徐々に住民同士の信頼感や結束力が高まり, 様々な活動が生まれた。(問題 57)

さて, 3問連続事例問題!がんばりまっしょい。

問題 55 次のうち, この場面でA精神保健福祉士が行ったニーズ把握の方法として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 半構造化インタビュー
2 パブリックコメントの募集
3 アンケート調査
4 フィールドワーク
5 ワークショップ

この形式の問題もよく出題されますね。選択肢それぞれのニーズ把握の概要を覚えておく必要があります。昨年のこちらの問題もチェックが必要です。

選択肢1 誤り。半構造化インタビューとは, 事前に大まかな質問事項を決めておき, 回答者の答えによってさらに詳細にインタビュー内容を変更していく方法です。事例は, 個別の調査ではありますし, 自由度の高い調査なので当てはまらないと思います。

選択肢2 誤り。パブリックコメントは, 公的な機関法律や制度などを制定しようとするときに, パブリックに, 意見を求める手続です。地域住民と施設の関係では使われない用語ですね。

選択肢3 誤り。アンケート調査は, 質問項目が記載されたアンケート用紙と呼ばれる調査票あるいは質問紙を用いて, 複数の人に同じ質問を行うことでデータを収集する活動のことです。

選択肢4 誤り。フィールドワークとは「現地調査」とも言われます。対象となる地域や社会に赴き, その土地に暮らす人々と生活を共にしながら対話し, 生活や社会の仕組み, その土地ならではの考え方の枠組みを理解しようとする社会調査の手法のことです。事例の内容はフィールドワークの一部と言えなくはないと思いますが, ちょっと枠が大きすぎると思います。
選択肢5  正答。初めての出題ではないでしょうか。Hatena Keywordを参考にしました。ワークショップは一方通行的な知や技術の伝達でなく, 参加者が自ら参加・体験し, グループの相互作用の中で何かを学びあったり創り出したりする, 双方向的な学びと創造のスタイルです。ファシリテーターと呼ばれる司会進行役の人が, 参加者が自発的に作業をする環境を整え, 参加者全員が体験するものとして運営される。近年は企業研修や住民参加型まちづくりにおける合意形成の手法としてよく用いられています。

 

問題 56 次のうち, この活動においてA精神保健福祉士が果たした機能として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 セルフヘルプグループ
2 広報などによる情報提供
3 地域ケアシステムの構築
4 ソーシャルビジネスの創設
5 社会資源の開発

選択肢1 誤り。セルフヘルプグループは, 同じ苦しみをかかえている人たちが,思いや体験を共有することで苦しみを分かち合い,自分らしく生きていく力を得ようという目的で集まるグループのことです。事例の状況には当てはまりませんね。

選択肢2 誤り。この段階では, 広報による情報提供の段階は既に超えていますねー。広報による情報提供とは, 「こんなイベントやってますよー」とかそういうものではないでしょうか。

選択肢3 誤り。地域ケアシステムとは, 在宅の介護や生活支援を必要とする方々に対して, 一人一人に最も適するように保健・医療・福祉サービスを組み合わせて提供する仕組みです。事例とは異なると思います。

選択肢4 誤り。こちらを参考にしました。ソーシャルビジネスとは, 地域社会の課題解決に向けて, 住民, NPO, 企業など, 様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むものです。ソーシャルエンタープライズと呼ばれることもあるみたいですね。

選択肢5 正答。どうもこれが正解みたいです。事例の活動は地域を活性化するとともに, 地域住民にとっても施設利用者にとっても社会資源を開発したと言えると思います。

 

問題 57 次のうち, この活動を通して地域に形成されたものとして, 適切なものを1つ選びなさい。
1 ソーシャルキャピタル
2 ソーシャルファーム
3 ソーシャルプランニング
4 ソーシャルポリシー
5 ソーシャルアクション

これはちょっと難しいですね。うーソーシャルソーシャル。。。日本語で言ってくれええ。。これらの用語を正しく使えてる精神保健福祉士は何人いるんだろう。僕も正確に答える自信はないので, カンニングしながら解説していきます。

選択肢1 正答。ソーシャルキャピタルは社会関係資本とも呼ばれます。 社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念なのでこれが事例にフィットした用語だと思います。

選択肢2 誤り。この論文が参考になりました。ソーシャルファームとは, 特に障害者や労働市場で不利な立場にある人のために安定的な雇用と賃金を確保する, という社会的な目的をもって活動している企業や組織を指します。つまり, 障害者や労働市場で不利な者にとっては「福祉的雇用」でも「一般雇用」でもない, その中間に位置するいわば「第三の雇用」とも言われています。

選択肢3 誤り。介護保険福祉用語辞典によると, ソーシャルプランニングとは, 社会福祉援助技術における問接援助技術の1つで, 社会を構成する諸要素の変動によって多様化する社会福祉ニーズに対して, 社会資源の確保などの課題を明確にして, 将来における展望をもった社会計画をあらかじめ立てることで, その変動に対応しようとする一連の理論と技法です。事例とは近いとは思いますが, この事例ではあまり計画について述べられていませんので, 選択肢1の方が正答に近いと思います。

選択肢4 誤り。ソーシャルポリシーとは「福祉政策」と呼ばれるものです。これは説明すると長くなるので, またどこかで出てきたら詳しく説明します。

選択肢5 誤り。ソーシャルアクションは, 社会福祉制度やサービスの新設・改善を目指して, 議会や行政機関に対応を求める組織的な行動およびその方法のことを示します。事例とは異なった内容ですね。

この事例問題は, 過去の事例問題の中でもかなり難しかったですねー。用語の意味を正しく理解できているかを問われる問題が多かったです。

今日はここまでー。次でこの科目は終了です。

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