第26回-精神専門70ー72

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次の事例を読んで, 問題 70から問題 72までについて答えなさい。
〔事 例〕
市役所の保健福祉課総合相談窓口のG精神保健福祉士のもとに, H民生委員から相談が入った。相談は, 担当地域に暮らすJさん (66歳, 男性) とその妻Kさん (65歳, 女性) のことであった。ここ数か月Kさんの姿を見かけなくなり, そのことをJさんに尋ねても, 「実家に帰っている」としか答えてもらえない。しかし, 近所の人たちからは, Kさんの叫び声やJさんの激しく叱責する声が聞こえるとの話であった。虐待のおそれがあるものの, どう対処してよいのか分からず相談に来たというのである。
G精神保健福祉士は, H民生委員の話から虐待のおそれのある事案としてとらえ, JさんKさん夫婦への接触を試みることとした。(問題 70)
翌日, G精神保健福祉士とH民生委員がJさん宅を訪問したところ, Jさんは「どうして来たのか」といった感じで話したがらなかったが, 少しずつ語りだした。Jさんの話によると, Kさんは家事と翻訳の仕事をしながら自宅で過ごしていたが, 2年余り前から, Kさんが何度も同じことを言うなど様子がおかしくなってきた。そして, 家事を満足にできなくなってきたため, 総合病院を受診した。その結果, Kさんは若年性アルツハイマー型認知症と診断されたという。しかし, JさんもKさんもその診断結果を受け入れられず, 以来, 受診はやめたとのことであった。(問題 71)
JさんKさん夫婦は, 一戸建て住宅に住み年金暮らしである。近くに親戚はおらず, 一人息子(32歳)は結婚して現在県外で暮らしているため, ほとんど行き来がない。Kさんは, 認知症の症状が進んでいるようだが, 玄関先から見えた自宅の中は, かなり散らかっていた。Kさんに面会したところ, 奥の部屋で横になった状態で髪の毛はボサボサで何日も入浴していなし、様子で, 痩せこけており, H民生委員は以前の様子との違いに驚いていた。この後, G精神保健福祉士は必要な対応を行った。(問題 72)

問題 70 次の記述のうち, この時点でのG精神保健福祉士の対応として, 適切なものを2つ選びなさい。
1 H民生委員に対し, Jさん, Kさんの同意がなければ, 民生委員法の秘密保持義務に違反すると指導した。
2 H民生委員の相談は, 民生委員法の秘密保持義務に抵触しないと伝えた。
3 H民生委員からの相談を基に, 住民基本台帳からJさん世帯の状況を確認した。
4Jさん, Kさんの同意なしに, 勝手に世帯状況等の個人情報を調べたり, H民生委員へ提供することは, 「個人情報保護法」に抵触すると伝えた。
5 Jさん, Kさんの個人情報をH民生委員へ提供することは, 精神保健福祉士法の秘密保持義務に違反すると伝えた。
(注)「個人情報保護法」とは, 「個人情報の保護に関する法律」のことである。

虐待に対する秘密保持についてですね。これは面白い問題だと思います。ただ, 1つの選択肢を選べば自然と他の選択肢が削除されるので, よくわからなくても解けた人が多くなりそうですね。

選択肢1 誤り。高齢者虐待防止法では, 『養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は, 速やかに, これを市町村に通報するよう努めなければならない。 』としていますし, 高齢者虐待の通報者に関しては, 日本では被害高齢者の秘密漏示罪や守秘義務規定の適用となりません。

選択肢2 正しい。選択肢1の逆の問題ですね。

選択肢3 正しい。これは難しいですが, こちらを参考にしました。また条文にも『速やかに, 当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずる』と記載されていますし, 虐待が疑われる事例については, その世帯構成を調べる事は職権の範囲内と考えられますね。それ以外にも戸籍謄本, 生活保護の有無, 医療機関, 介護保険関係の機関からの聴取も可能です。

選択肢4 誤り。選択肢3の反対の内容ですね。

選択肢5 誤り。秘密保持の義務として「精神保健福祉士は, 正当な理由がなく, その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。」という条文がありますが, 虐待等が疑われる場合は正当な自由の1つと言えると思います。

 

問題 71 次のうち, この時点でG精神保健福祉士が, JさんKさん夫婦を結びつける機関として, 最も適切なものを1つ選びなさい。
1 障害者虐待防止センター
2 発達障害者支援センター
3 地域活動支援センター
4 地域生活定着支援センター
5 地域包括支援センター

高齢者虐待に関する問題は, 昨年のこの問題にも出題されているので参考にしてください。来年以降も出題されると思います。

選択肢1 誤り。障害者虐待防止法についてはこちらこちらの問題を参考にしてください。これは障害者虐待に規定されているものです。事例は, 高齢者虐待なので誤りだと思います。

選択肢2 誤り。うーむ。これを誤った選択肢の1つに入れる理由もよくわかりませんねー。

選択肢3 誤り。地域活動支援センターも何度も出題されています。こちらが参考になると思うのでチェックしてください。こちらも高齢者虐待防止についての専門機関ではありませんね。

選択肢4 誤り。地域定着支援センターは, 高齢又は障害を有するため, 福祉的な支援を必要とする矯正施設退所者について, 退所後直ちに福祉サービス等につなげるために設置されている支援機関です。

選択肢5 正しい。地域包括支援センターについては, 高齢者虐待を発見したものが通報義務が課せられているなど, 地域の中の第一線機関として位置づけられています。

 

問題 72 次の記述のうち, G精神保健福祉士の行った対応として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 虐待事例に相当することをJさんに自覚させ, Jさんの同意を得た上で, Kさんを特別養護老人ホームへ入所措置することとした。
2 Jさんの同意を得ることができないため, 現状のままKさんを見守るほかないと判断した。
3 Kさんが虐待を受けている可能性があると判断し, 直ちに立入調査を行うため, 警察に援助要請を行うこととした。
4 KさんをJさんと分離し, 虐待から保護する目的のため, 認知症治療病棟のある精神科病院へ入院させることとした。
5 Kさんが虐待を受けているおそれがあると考え, 高齢者虐待対応協力者とも連携することとした。

これは事例問題らしい事例問題ですね。どれもこれも極端なので比較的まともな選択肢を選ぶという感じでしょうか。

選択肢1 誤り。まず「虐待事例」と決めつけることもどうかと思いますし, なんの介入する前から特別養護老人ホームへの入所を勧めるものも適切とは思えません。

選択肢2 誤り。他の選択肢の様にすぐに分離も行き過ぎかとは思いますが, 現状のままで見守るというのは, ちょっと消極的かと思います。何らかの支援は必要ではないでしょうか。

選択肢3 誤り。必要に応じて警察署長に援助を求めることは可能ですが, 「直ちに」というのは行き過ぎではないでしょうか。

選択肢4 誤り。選択肢1と同様にこれも将来的にはあり得ないことではないですが, 事例の状況では早急すぎると思います。

選択肢5 正答。「虐待の恐れ」というのが選択肢1と比較すると緩やかな表現ですし, これが選択肢としては一番正答に近いと思います。

ちょっと迷う内容の多い事例問題でしたねー。さて, これであと一科目ですね!

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